【紙ふうせんブログ】

平成28年

紙ふうせんだより 12月号 (2017/04/14)

皆様、いつもありがとうございます。風邪はひかれていませんか? 疲れは溜まってはいませんか? 皆様のおかげで今年1年を乗り越える事ができました。皆様のご尽力あってこその紙ふうせんであり、利用者さんの生活です。感謝してもしきれない恩があり、ささやかな形でしか報いる事はできませんが、もっと良いことが何かあるでしょう。昔の人は「陰徳あれば陽報あり」と言って、天の照覧があると考えました。私も皆様への感謝と今後の健康を、澄んだ夜空の星を見上げながら祈ります。

未知なるもの、その多様性

さて、私たちはこの宇宙の事をどれくらい解っているでしょうか。実のところ、宇宙で私たち人間が理解している物質やエネルギーは宇宙全体の4%でしかなく、宇宙は私たちの知らない物質やエネルギー(ダークマターが22% ダークエネルギーが74% ダークは“未知の”という意味)によって成り立っていると言われています。さまざまな観測結果や物理学の計算からそのような事が推測されるのです。

同じような事が生物学でも言われています。最新の研究では地球上には870万種以上の生物が存在すると考えられていますが(1億種以上という説もある)、その中で、陸生生物の約86%、海生生物の約91%が未知の未発見の生物種となります。(現在1年間に4万種以上の生物が人為的な環境破壊により絶滅しているとされており、これを譬えて、「宇宙船地球号は、1時間に4~5個の部品を落としながら飛んでいる」と言う人もいます)

前回の紙ふうせんだよりでは「汝自身を知れ」という事が一つのキーワードでしたが、私たちは、この世界の事も宇宙の事も実はまだよく解っていないのです。私たちの生は、膨大な未知なるものを基盤として成り立っているのです。そして、その未知なるものは、私たちの知っている世界が多様性に満ちているように、想像もつかないような豊かな“多様性”が隠されているのです。

多様性の尊重と受容

福祉の世界で“多様性の尊重と受容”が叫ばれて久しいですが、その考えは今、多方面に広がり、自然科学や人文科学やビジネスの世界にまで及んでいます。それは、現代文明が画一性を推し進めた結果として、差別や格差や環境破壊を生じてきた事(過度なグローバリゼーションの推進による地域紛争の拡大等)への反省からなのかもしれません。

例えば北欧の家具・雑貨の直販メーカーのIKEAでは、イケア・ジャパン社内に「ダイバーシティ&インクルージョン」という部門を2002年に新設し、「100人いれば100通りある個性や才能。この多様性(ダイバーシティ)を互いに尊敬し認め合い、インクルージョン(受容)していくことで、国や文化の違いを越えたビジネスに活かしていく。」(月刊事業構想)という理念を掲げています。イケア・ジャパンは2014年の経産省の「ダイバーシティ経営企業100選」にも選ばれています。

また考古学や民族学の分野でも、“単一稲作民族”と考えられてきた日本の歴史観は誤りで、日本は“多様な文化”から成り立っている事が発掘や調査などから明らかにされてきており、その多様性から成り立っている事実の価値を再認識しようとの訴えが出てきています。

「われわれ日本人は、何よりも多様な価値軸をもつユニークな文化を有するという認識を十分に抱くことが必要です。その上で多文化・多文明の時代の到来したいまこそ、われわれの文化が、本来その中に内包してきた協調と調和の精神の必要性を世界に向けて発言し、その方向に向かって行動すべきではないでしょうか。」と、元国立民族学博物館の佐々木高明は『日本文化の多様性 稲作以前を再考する』(小学館)で述べています。

これらが志向している“多様性”の何が尊重されなければならないのか。それは私たち自身が、未知なものも含め多様なものの上に成り立っているという事実であり、私たちの依って立つ基盤(=多様性)を大切するという事は、何よりも私たち自身を大切にする事に他ならず、自他を区別なく尊重する事が自身の為でもある、という自他を包摂する考えです。

生物学者の岩槻邦男は『生命系 生物多様性の新しい考え』(岩波書店)の中で、「個は全体のうちにあって、全体を構成する要素となる。全体が生きなければ個の生存はない。同時に、個々の要素が生きなければ、全体の生存は成り立たない。君という個人の幸せは、君一人で完結するものではない」と述べています。

では、受容とは何でしょうか。それは、未知なるものとしての“他”であり、未知なるものを排除せずに受け入れ、「知ろうと努力をしていく事」ではないでしょうか。そして、その未知なるものの身近な最たるものこそ、“自身”に他ならないのです。私たちは介護を通して他者を知っていきます。他者との接触によって自身の心はリトマス試験紙ように反応しますが、それによって自分自身を知れるのです。鏡が無ければ自分の姿は解りませんが、利用者さんが鏡となってくれるのです。それは介護の仕事の大きな価値となっています。

未知なるもの、「可能性」への挑戦

一人の人間の“意識”は、膨大な人類史的な“無意識”を基層として成り立っていると言われています。分析心理学者のユングは、自分自身に内在する無意識という未知なる可能性に挑戦し自分自身の中にある多様性を開花させ結実させる努力(「個人に内在する可能性を実現し、その自我を高次の全体性へと志向せしめる努力の過程」)を「自己実現の過程」と呼んでいます。また、未知なるものへの挑戦に必要な態度とは、「実は、自分は未だによく解っていない」という「未知」の多さを自覚し、ないがしろにしないで謙虚に知っていこうとする、自分自身に対しても開かれた、自己受容の態度でしょう。未知なるものへの挑戦は、それが他者や環境に向かっていても自身に向かっていても、結局は自他どちらの為でもあるのです。だからこそ、他に対する自身の態度を自覚していかなければなりません。

今これから先の一分一秒も「未知なるもの」です。環境の変化も既に出会っている他者も、これから出会う他者も自分自身も、全て「未知なるもの」です。私たちはとても多くの未知なるものに囲まれた、豊かな多様性の中に生きているのです。その多様性が一人ひとりの可能性となり、豊かな人間性の輪が拡がっていくように念願し、新しい年に向かって挑戦していきたいと思います。来年もどうぞよろしくお願いします。

 


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