【紙ふうせんブログ】

令和4年

紙ふうせんだより 6月号 (2022/07/22)

他者との相互作用によって見いだされる自己

皆様、いつもありがとうございます。灰色の雲の下で緑が雫に濡れています。緑陰に小さな灯火のように涼し気に咲いている白い花はドクダミです。ある方は「ぽっとん便所の裏に生えていたから、ドクダミは“便所草”のイメージしか無い」と言われ、ドクダミに悪い印象をお持ちの様子でした。花屋の店先のような色鮮やかさは無いけれど、ドクダミにはドクダミの美しさがあります。それを見落としてしまうのは残念です。考え方や価値観が柔軟性を失うと、物事を見る目は自分の偏見ままに留まってしまいます。

 

自己像が硬直化してしまうと、自己は危機にさらされる

良くも悪くも「私は〇〇な人間」と単一的に捉えてしまうのは硬直化した考え方です。考え方や価値観が硬直化してしまうと、「好き」ではなく「嫌い」が先鋭化していきます。嫌なものを避けようとするのが生存本能だからです。そして、どこに行っても何をしても嫌なものばかりが目に付くようになってしまったら、かえって自己の生存の危機となります。辛くてしょうがなくなる訳ですから、ますます嫌なものを避けようとします。そうして、かえって嫌なものが目についてしまうという悪循環(※1)です。

アレも嫌いコレも嫌いとやってると、「好き」の幅は縮小し、「嫌い」の幅がひろがってしまいます。また、そんな自分に悩み「自分のココが嫌い」「ココも良くない」とダメなところを数え上げて(※2)悩みに沈み込んでしまえば憂鬱になりますし、かえって失敗もあるでしょう。失敗から「自分はダメなんだ」と決めつけてしまえば鬱病になってしまいますから、決めつけないことが肝心です。

 

※1 森田療法ではこのような悪循環を「とらわれ」と呼ぶ

※2 認知行動療法で「反すう」と呼ぶ
 

自己は、多面的な自己像を持つ

自分とは何でしょう。循環する構造に着目してみましょう。

調子のよい時は好循環が起きていて、調子の悪い時は悪循環が起きていると捉えるのです。問題は循環にあるのですから、調子が悪い時は、とりあえず循環していそうな言動を一部でも「変えてみる」のです(※3)。実際にそれで悪循環が止まったりするのですから、自己の中に何らかの本質的な問題があると捉えて苦しむよりは、解決のハードルはぐっと下がってきます。いっそのこと単一的で固定的な自己などなく、良くも悪くも自己像は「循環によって立ち現れる」ものとして捉えてみましょう。

「杉浦の自己モデル(※4)」では、「自己とは認識された自己であり、さまざまな行動(他者とのコミュニケーションも行動のひとつである)とその結果のフィードバックの記憶が循環的に軌跡の重なりを形作ることによって、その輪郭が自己として認識される(※5)」としています。「認識される自己は、唯一のものではなく、さまざまな分野、さまざまな他者との関係において複数認識することができる(※5)。私たちは時と場合に応じてさまざまに異なる自己を認識し、それに基づいて自己呈示を行っている」と考えるのです。

ならば、好ましい自己像が周囲の人との相互作用によって多く自己呈示できるになっていけば、「朱(しゅ)に交われば赤くなる」とのことわざの通りに、自己も徐々に変わっていくと思われるのです。

 

※3 認知行動療法の考え方

※4外界・他者との相互作用の記憶が循環的に重なることによって輪郭が浮かび上がり、それが自己として認識される

※5杉浦健(近畿大学教職教育学部教授)「循環によって立ち現れる多面的自己から考えるセルフコントロール」より

 

支援者との関係性から見いだされる自己像

周囲との人間関係によって立ち現れる多面的な自己像は、実際に介護現場でも多く目撃します。要介護高齢期は、アイデンティティの揺らぎもあり、認知症があればなおさら適応行動や記憶が不確かになりますから、循環によって立ち現れる自己像も周囲の人間関係に依存的になります。

例えば、支援者が生活上の不安を事細かに聞いて「それは怖いね。不安だね」と不安に強く共感を示していくことによって不安な気持ちが循環して増幅し、その支援者との関係において利用者さんに「怖がりな自己像」が現れ、利用者さんはその支援者に以前よりも増して不安を訴えるようになった、というようなことはあります(※6)。ところがその利用者さんも別の支援者との関係では、「大丈夫、大丈夫、大したことない」と小さな失敗も支援者が冗談を交えて笑い飛ばしてくれてお互いに笑いあっていたところから、その支援者との関係においては「おおらかな自己像」が現れたりもします。

このようなことが実際にあるわけですから、支援者側の考え方や価値観は柔軟でなければなりません。「自分はたくさん質問して聞き込んだから、アセスメントに間違いはない」などといった気負いがあったりすると、その支援者自身からは見えていない利用者さんの別の側面を見落としてしまったりするのです。実はその利用者さんは質問攻めに嫌気がさして自分の気持ちを打ち明けなかった、ということもよくある話です。

私たちとの関係性によって、利用者さんの自己像はさまざまな姿をとります。例えば、自立支援ということで、レジでの清算に戸惑う利用者さんを(さりげないフォローを入れずに)ただ見守るだけを繰り返していところ、利用者さんに「何もできなくなった自己像」が現れることはあります。また、「自分はもうダメだな~」と言われる利用者さんに「そんな風に考えたらダメですよ」と繰り返し訴えていたら、ますます「ダメな自己像」が強調されたりもするのです。

 

自己像が大きく揺らぐとき

古い自己像を合わない服のように既に脱ぎ捨ててしまったにもかかわらず、新しい自己像が未だに見いだせないような時、私たちの内面は大きく揺らぎ不安にさらされます。自意識の芽生えに揺れる思春期や大人へと変わっていく青年期など、ライフステージの変化に伴って、それは起こります。

家では素直な子が悪友と戯れて万引きしたりするなど、一面しか見ていない人からすれば、信じられないような多面性が現れるのです。時には、自己を「変えてみたい」と変化を無意識的に強く希求するところから、既存の規範を犯すようなこともやってのけます。ギリシャ神話ではプロメテウスが天の火を盗み人間に与えて文明の火となり、創世記ではアダムとイブが知恵の実を盗み食いして人間は楽園から巣立ちますが、人類の黎明を描く神話(※7)にもそのような規範の逸脱が描かれています。

自己像が大きく揺らぐ時、それは利用者さんにもありますが、大きな「やらかし」は起こります。それを新しい自己像へ飛躍の試みであると肯定的に捉えれば、慌てることはありません。利用者さんが起こしてしまったボヤや転倒や迷子といった事件も、自己統合の過程に必要なこととして起きていると周囲が受け止めれば、利用者さん自身も新たな自己像を見出すきっかけとなるでしょう。

ともあれ、鏡に向かって敬い頭を下げる時、鏡に浮かぶ像もこちらを敬い頭を下げます。このような円環的因果律による循環は、自他の関係の基本であると思われます。

 
※6「不安にならなくていいよ」「不安なことは考えない方がいいよ」との声かけは、時にかえって不安に注視させてしまう。この囚われを「皮肉なリバウンド効果」と呼ぶ。囚われてしまっている自己が唯一の自己ではないということを知れば、囚われからの脱出の一歩となる

※7ユング心理学では神話や童話は人間の心理的構造のメタファーになっていると考える
 

 

紙面研修

熱中症を防ぐ

(空欄の穴埋めをしてみよう)

【身体に熱がこもるとどうなるのか】

人間の体の中では、いつも熱が作られています(産熱)。そして体の体温を一定に保つ働きが人間の体にはあります。気候条件や運動量増加により、体内の熱量が増えたにもかかわらず、放熱とのバランスが崩れてしまったときに熱中症は起こります。

体の熱量が増えると、体の表面(皮膚の下)の ① は拡張し血流量は増加します。体内の熱を体の外に逃がしやすくする為です。その時、血液が全身に行き渡るために体内の血液が一時的に不足して ②  が下がってしまう事があります。すると ③ に十分な血液が送られなくなります。 ③ への血液供給が少ないと、脳は酸欠を起してしまい、めまいや立ちくらみや、意識を失ってしまう事があります。これを「熱失神」と言います。お風呂の“のぼせ”と同じ原理です。なお、高齢者がお風呂で亡くなってしまう原因は入浴中の急な血圧低下によって失神し溺れてしまうからだと言われています。

体を冷やすためには、太い動脈が体表近くにあるところ(首、わきの下、太もも等)に、保冷剤や濡れタオルなどを当てるクーリングを行います。

 

 

【脱水になるとどうなるのか】

体温が上昇した時には体は汗をかきます。汗の ④ によって、体は放熱する事ができます。この時、発汗量が多いにもかかわらず、水分補給が足りないと、体は脱水状態になります。脱水状態が長く続くと、頭がボーっとして全身がだるくなって、水分や食事を摂ろうという“やる気”さえ無くなったりします。

「だるい」「なんとなく手足がツル、痺れるような感じがする」さらには「頭が痛い」「吐き気がする」「めまいがする」ということも起こります。「熱疲労」とも言われます。

これらの症状の怖いところは「ぼんやりとしてしまって、判断が鈍る」事です。例えば、炎天下にちょっと外出して帰宅したけれども、だるくってコップ1杯の麦茶を飲んで寝てしまった。その後、目が覚めても疲れが抜けず夕食を抜いてしまった…。単なる“疲れ”であれば、1食抜いても寝て休めば治ります。しかしこの“疲れ”が脱水に起因するものであれば、寝ている間にも症状は進行します。そして、食事から補給される水分量は多いわけですから脱水の悪化は避けられません。翌朝、脱水状態で一晩過ごしてしまったために脳梗塞を起してしまった!となったら大変です。

そのようになる前に、頭がぼんやりとして身体の危険信号に注意を払えなくなってしまう前に、日頃の意識的な水分補給が大切です。体への吸収の速いポカリスエットなどのスポーツドリンクなどが有効ですが、高齢者などで水分摂取が困難な様子であれば、病院へ搬送し点滴をしなければなりません。独居の方は救急車要請を検討する場面です。

脱水症状の本当に怖いところは、それが心筋梗塞や脳梗塞の原因になる事です。体温が上がると、身体は「放熱」の為に血管を拡張させます。その結果、血圧が下がって血液を送り出す力が弱まります。そのような時に脱水が加われば、脱水症状でドロドロになった血液は「血栓」ができやすくなります。血栓が心臓に詰まれば ⑤ 、脳に詰まれば ⑥ です。どちらも対処が遅れれば命に係わります。

 

【運動中の若者が倒れる「熱射病」】

 運動中に疲労はつきものですし、喉も乾きます。だからと言って身体のサインを無視し続けると、熱の影響が脳に出てしまいます。これを「熱射病」と言います。そうなると自分では判断できませんし、意識が遠のいて倒れてしまいます。運動部の練習などで炎天下にトレーニングしていたらぐったりしていたので、木陰で寝かせていたらそのまま亡くなってしまったというニュースがあるように、大変危険な状態です。また、汗の中にはナトリウムなどの塩分(電解質)が含まれていますが、大量の発汗の後に、塩分を補給しないと体の中の塩分量が不足してしまいます。電解質は筋肉の動きを調整する役割も持っているので、塩分が不足をすると手足がつったり、筋肉が ⑦ をおこしてしまうことがあります。これを「熱けいれん」といいます。

 

(回答) ①血管 ②血圧 ③脳 ④蒸発・気化 ⑤心筋梗塞 ⑥脳梗塞 ⑦けいれん

 

【下記の状態が見られた場合は要注意】

 ◾元気がない ◾食欲が無い ◾便秘が続いている  ◾尿の色が濃く量や回数が減った

◾居眠りをしていることが多くなった ◾手足が冷たい ◾指の先が青白く冷たい ◾首筋がべたべたする ◾皮膚やわきの下が乾燥している ◾口の中が乾いている ◾皮膚に張りが感じられない

 ◾微熱が続いている ◾血圧が低い ◾脈が速い(120回/1分) ◾体温が37℃以上ある

◾爪を押して離した時、赤みが戻るまで3秒以上かかる ◾手の甲をつまむと形が残る(富士山)

◾吐き気がする ◾頭痛がする ◾しびれや痙攣がある ◾受け答えの反応が弱い ◾めまいがする

 ◾夜間や日中の室温が高い ◾下痢や嘔吐、大量の汗をかくなどを繰り返している(脱水リスク)

 

 

 


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