【紙ふうせんブログ】

令和6年

紙ふうせんだより 4月号 (2024/05/27)

今日までの日は今日捨てて…

皆様、いつもありがとうございます。初々しい学生や新社会人が闊歩する季節になりました。新年度です、気持ちを新たに進んでいきましょう。

「批判」は悪い事?

新人教育の現場などでは、「最近の若者は批判を悪い事と思っているのか、批判する事ができないし批判される事にも弱い」などということが聞かれます。皆がそうなっているとしたら構造的な問題です。まことしやかに語られる原因は、「今の若者世代は同調圧力が強い」とのこと。本当なら「圧力」には上の世代が作り出した「空気」もあるでしょうから、責任はオジサンにもあります。

もっとも、柳田国男が古代オリエントの研究者のセイス教授から聞いた話として、エジプトの中期王朝の一書役の手録に「この頃の若い者は才智にまかせて、軽佻(けいちょう)の風を悦(よろこ)び、古人の質実剛健なる流儀を、ないがしろにするのは嘆(なげ)かわしいことだ云々(※1)」と記されているというので、四千年前も今と同じことを言っているのです。

オジサンの若者批判は、世代刷新と文化変容に伴うありがちな構図です。オジサンが「ステレオタイプ(※2)」の反応をしているとも言えます。私はここでオジサンのぼやきを批判していますが、これはオジサンの否定ではありません。「批判」とは問題の意味や所在を明らかにすることです。




※1柳田国男(1875-1962)「木綿以前の事」

※2社会心理学のステレオタイプとは多くの人に浸透している類型化された固定観念で印刷術の鉛の原版(ステロ版)が語源




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批判的思考(クリティカルシンキング)のすすめ

「無理解」なオジサンとはどのように付き合ったら良いでしょう。戦うのか黙って丸呑みするのか極力スルーするのか。どれも良くありません。第一、オジサンは「仮想敵」ではありません。手始めに「無理解」との断罪に決めつけはないか、自分の思考態度を疑ってみましょう。その上で、疑問を感じたらきちんと聞き矛盾や誤りを見つけたら指摘をしましょう。

教育認知心理学の楠見孝は「マイサイド・バイアス(自分の信念が正しいと思ってしまうこと(※3))に陥らずに自他の思考を吟味するという、メタ的(※4)に一つ上の立場に立って考えること」が大切だと述べています。これをクリティカルシンキングと言います。もちろんオジサンの側も「最近の若者は…」と愚痴る前に、マイサイド・バイアスを疑うことが必要です。

「批判的思考のガイドライン(※5)」(Wade,1997)では、次の8項目を挙げています。

・問いをたてよ ・問題を定義せよ 

・根拠を検討せよ ・バイアスや前提を分析せよ

・感情的な推論(「私がそう感じるから真実である」)を避けよ

・過度の単純化をするな

・他の解釈を考慮せよ 

・不確実さに堪えよ

見通しが立たないことは不安です。焦りから責任を誰かに預けたくなります。解らないものを「解らない」と留保する「不確実さに堪え」なければ、人は安易な「決めつけ」を行ってしまうものです。どこからか与えられる回答に簡単に飛びついていては、物事を深く見ることはできません。感情の動揺や、結論を急ぎたい早く片付けたいという欲求から距離を置き、自分自身の「おごり」にも気を配り、自分と対象と状況の構図を俯瞰するべきなのです。




※3 バイアスとは偏見や先入観のことで、認知心理学で言う認知バイアスにはたくさんの類型があり、思考や判断に影響を与える。思考の効率化に資する面もあるが、事実誤認や思考停止を引き起こす等の悪影響もある

※4「高い次元の」等の意味で枠組みの外側に出て俯瞰するような視点のこと

※5 道田泰司「批判思考の諸概念」琉球大学教育学部紀要2001.9




ケア過程の展開に必要な最初の一歩

ケア理論でも重要視されているクリティカルシンキングは、ケア過程の展開を促進します。「常識がとらえた物事のみかけに対して、より洞察を求めるもの(※6)」であり「実践した行為を目的と照合し振り返ることで判断と知識を統合し、その場で起こっている状況を把握して、その後のケアに適用できる(※6)」からです。時には定着している常識を疑うことが大切です。

お泊りデイのフランチャイズ本部で、私が担当事業所の立ち上げ後の指導に出張した時のことです。利用者さんと昼食を共にし、生活の縮図である食事風景を観察しました。配膳時に女性の利用者さんが浮かない顔をして、自分の口元を触っています。その方の前にはペースト食が置かれました。しかしその認知症の方は、姿勢も良くムセずにお茶飲んでおり食事も問題なく自立で終了。

私は、MTGで「あの方はなぜペースト食なのですか?」と聞きました。管理者の回答は「契約の時にご主人が家でミキサーをかけていると言っていたから」というものでした。「医学的根拠は聞いていますか?お茶にとろみはついていませんよね?嚥下の問題があれば指示があるはずですが…(※7)」と問うと、ピンときた様子の介護職員がファイルを調べて根拠資料の無いことを確認しながら、「あの方、総入れ歯をよく外してしまうんです。そしてその顔が恥かしいのか、顔をよく撫でています」と発言。「皆さんが毎日ペースト食だったらどうですか?」と投げかけると、「ケアマネさんにペースト食の理由を聞いてみます!本人にも普通の方が良いか聞いてみます!」と返答。それから口数の少ないその方に説明を工夫して意向をくり返し確認します。

夕食の時間、荒く刻まれたトンカツが配膳されます。刻んであってもトンカツです。しかしその方は満面の笑みで問題なく完食なさいました。ケアマネも根拠を知らなかったことから、食が進まないことによりご主人のミキサー使用が常態化していったことが推測され、義歯安定剤を試みたのです。この後の展開は、ご主人にデイ対応での歯科受診の許可を頂くことになりました。先の職員は「義歯が合うようになれば装着していられるようになるし、顔の形も整いますよね」と、ケアの発展に意欲を見せます。

翌日のMTGで私は「お泊りデイは利用者さんのお家です。皆さんは単に預かるのではなく利用者さんの幸せの『責任』を負っていると自覚して、利用者さんの満足を第一に考えて下さい」とお願いしました。すると経営者が「私は親の介護で苦労をしたから、家族の苦労を引き受けようとこの事業を始めました。従業員には家族の意向を大切にしろと言ってきましたが、利用者さんのことも第一に考えるようにしていきます」と述べて下さいました。

 

自分や周囲の人を自由にする批判的思考

人は前提とした自分の考えを疑わないバイアス(確証バイアス)を持っています。そのためクリティカルシンキングでは、最初に思いついた考えや決定、すぐに利用できる方法や楽な決定に「固執するな(※5)」としています。より良い考えを導き出すためには、柔軟で多面的な視点に基づく論理的な推論の過程が大切です。

「固執」を手放すことが可能になれば、人の心はもっと自由になれるはずです。心構えを変えれば見方は変わります。見え方が変われば態度が変わります。すると状況も変わるのです。未来は過去の単純な延長線上にはありません。風が季節を運びます。桜が咲き散って姿を変えるように、自分自身を刷新していきましょう。

 

けふまでの 日はけふ捨てて 初桜   加賀千代女(※8)




 ※6尾形裕子「日本の看護実践におけるクリティカルシンキングの動向と今後の課題」北海道文教大学研究紀要2016

※7ムセのない不顕性誤嚥の場合は水分にとろみが必要

※8加賀千代女(1703-1775)表具師の娘で幼少より俳諧をたしなむ





※紙面研修は本月号はお休みです。


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